シネマ歌舞伎「海神別荘」

シネマ歌舞伎「海神別荘」、海老蔵(今の團十郎)が公子の役にぴったりだった。若々しくて爽やかで、いかにも王子様然としている感じ。海老蔵の公子は男でありながら男という性別を超越していて、玉三郎の美女ももちろん性別を超越していて、泉鏡花作品の幻想・耽美な感じに、全ての役を男性が演じる歌舞伎という枠組みが合っているのだと思った。美女を本物の女性が演じると生々しさ・現実らしさが出てしまって、今回のような美しさにはならない。

実は「海神別荘」は唐組の劇団員が出演したリーディング公演を観たのみで、ちゃんとした舞台化を観るのは初めてだったんだよね。でも美女が海の中を黒潮騎士に囲まれて海底に連れて行かれる場面は凄い幻想美で、ちょっと涙が出てしまった。ここに伴奏音楽としてハープを合わせるのも玉三郎らしい演出でニクい。

泉鏡花は私の好きな作家で、「海神別荘」も好きな作品なんだけど、泉鏡花のような作家だと自分が小説を読んだ時頭に浮かべたイメージと舞台上で演出されたイメージを比べるのが楽しいよね。私は実をいうと「海神別荘」のあの道中の場面は、僧都が不吉だと感じたように、凄絶な美しさの中にも何か禍々しいような、刑罰を連想させるようなものがなくてはならないと思った。そういうイメージで頭に描いていた。もっとも玉三郎の演出したあの場面は素晴らしかったがね。