藤原歌劇団「ファウスト」(2024年2月)

東京文化会館藤原歌劇団の「ファウスト」を鑑賞。

私は原作でもメフィストフェレスのちょっとコミカルで皮肉屋なキャラクターが好きなんだよね。オペラでもメフィストフェレスファウストの前に現れる場面の「膨らんだ財布に豪華なマント 要するに私は本物の紳士ですぞ!」「このような扱いはいけませんねーー悪魔をわざわざこんなに遠くから呼び出しておいて追い返すなんて!」などの台詞が楽しい。

私が印象的に感じたのは、メフィストフェレスがマルグリートの姿をファウストに見せる場面。ここは、台本通りなら糸を紡ぐマルグリートの姿が現れるところだが、後ろのスクリーンにはルネサンス期のような絵画の女性の目元の部分、眼差しのみがクローズアップして映し出され、それを見たファウストが「欲しい」と胸を打たれる。永遠の美、青春というものへの憧れをよく表現した演出だったと思う。

ちなみに英国ロイヤル・オペラ2019年日本公演の「ファウスト」では体を洗うマルグリートの姿がスクリーンに映し出されていましたね。なにも台本通りでなくてもいいんだ。

もう一つは、ワルプルギスの夜のバレエの場面。このバレエの場面は省略されることもあるらしく、上演される場合も演出によって色々なパターンがあるのかもしれないが、今回の藤原歌劇団の演出は男女のバレリーナ達が先ほどまで我々が観ていたファウストとマルグリートの物語を縮図のように再現する、マルグリートを思わせるバレリーナが男性バレエダンサーと愛のダンスを踊り、男性に去られ、妊娠し、仲間のバレリーナ達から除け者にされる様子が、バレエのシンプルな振り付けで語られていく。それをじっと眺めているファウスト。いつの間にか、マルグリートもやってきて、自分の運命の縮図をじっと眺めている。という演出であった。

この演出は、先述した英国ロイヤル・オペラ2019年日本公演の、デイヴィッド・マクヴィカーの演出に似ている。このマクヴィカー演出のワルプルギスの夜は、「ジゼル」のウィリを思わせる白いチュチュを着たバレリーナ達が登場し、その中にはマルグリートと同一視されるお腹の大きな妊娠したウィリもいて、マルグリートのウィリは他のウィリ達から嘲笑され虐められる…という惨たらしい演出だった。どちらの演出も、ファウストの良心の呵責をよく表していていいと思う。