壽初春大歌舞伎第三部「花街模様薊色縫 十六夜清心」

壽初春大歌舞伎で『十六夜清心』鑑賞。百本杭川下の場の、心の弱さから盗みという罪を犯してしまい、うっかり・意図せず・偶然の間違いで人を殺してしまい、そのようにたまたま罪が重なってしまった結果、「待てよ…一人殺すも千人殺すも同じこと」と心が悪に目覚める、転回する、この心理の変化の描き方は見事というほかない。人間がいかにして悪の道に入るか、ということを見つめている。「この現場を見たのはお月さまと俺ばかり」という台詞にあるように見え隠れする月と、遠くで聴こえる騒ぎ唄(舞台上では実際の音として聴こえない)が、いい演出をしている。ほんと、人生って、そんなものなのよね。真剣に死のうとしてるところに間が悪く陽気な騒ぎ唄が聴こえてきてどうにも死ぬタイミングを逃してしまい、馬鹿馬鹿しくなってやめちゃうところとか。こういう間抜けさが、人生の本質だと思う。