靴の話

赤い靴がほしかった。女の子なら誰でも憧れたことがあると思う。学生の頃お母さんに「黒やったらどんな服にでも合わせられるから黒い靴買っておいでね」と言われ、渡された一万円ちょっとを大切に鞄に入れてAngelic PrettyやBABYに行くと赤のみならずペパーミントグリーンやらペールパープルやら喉から手が出るような色が並んでいて、それでも涙を呑んでそれらを横目に眺めつつ黒いのを買ったのだった。今はもちろん自分のお給料で買うようになっているが、そしたらなおさらあまり合わせられる服がない実用的でないものは買えなくて、こないだいつものように黒いのを履き潰して、いつものように同じような黒いのを買ってきた時、ついに玄関先で泣き崩れてしまった。あの頃、帰ってから叱られてもいいから、ペパーミントグリーンやペールパープルの靴を買っておけばよかった。それで今度こそ黒い靴買ってきなさいってお金渡されて、また違う色の靴買ってしまって、何度でも叱られればよかったのだ。